産業用ロボットは適切な操作と安全な使用によって、複雑な作業でも効率化を実現して生産性を向上できる反面、誤った利用で重大な事故を引き起こすリスクもあります。このページでは、産業用ロボットの事故事例や対策についてまとめました。
日本の製造業では様々な用途や機能に適合した工業機械や産業用ロボットといった利用されている反面、機械の操作を誤って作業員が挟まれたり、産業用ロボットの可動範囲にいたせいで巻き込まれたりといった事故も複数発生しています。
事実、厚生労働省が発表している「令和4年労働災害発生状況の分析」を見れば、特に製造業における死亡事故の原因は産業用ロボットを含む工業用機械への「はさまれ・巻き込まれ」が多くなっており、安全な作業環境を目指すためにも日頃からの安全対策や安全意識の向上が不可欠です。
産業用ロボットはあらかじめ入力・設定したパラメータや条件に従って、自動的に様々な作業を再現します。そのため、一度スタートさせればプログラムされている作業が終わるまで自動的に最後まで目的の作業を完了してくれることがメリットです。
しかし、言い換えれば産業用ロボットが行う作業や動作している機械に体がはさまれたり、作業服が巻き込まれたりすると、状況によってはそのままロボットが停止せず重大な労働災害に発展してしまう可能性もあるでしょう。
結果として、指が機械にはさまれて切断となったり、服の巻き込みにより体が機械へ吸い込まれて死亡してしまったりといった事故も想定されます。
作業の準備をしてからロボットを稼働させ、その後にロボットが動き出す前に作業員がその場を離れ、安全な距離を保つという工程があるとします。しかし、その際に作業員が焦って転倒したり、足下に何かが落ちていて転んでしまったりした場合、ロボットが動作した時点で安全距離を確保できておらず、そのまま事故につながってしまうというケースも想定されるでしょう。
また、特に協働ロボットのような人とロボットが一緒に作業することを想定している場合、作業員が足を滑らせて転倒したことで、正常な業務フローを再現できなくなって、結果的に労働災害の事故リスクが増大するという恐れも懸念されます。
産業用ロボットの中には、長いロボットアームを回転させるといった機構により、ロボットを中心として広範囲に作業スペースを確保しなければならないものもあります。そしてそのような場合、作業員が安全な距離に移動するのを確認してから、ロボットをスタートさせることが基本です。
しかし、ロボットの操作ボタンを押す作業員が十分に周囲の安全を確認していなかったり、他の作業員が不用意に作動前のロボットへ近づいたりした結果、回転しているロボットアームに衝突して事故が発生してしまうこともあるでしょう。また、自走式のロボットの経路に作業員がいて、衝突事故が発生するかもしれません。
ブラウン管パネルの製造ラインにおいて、監視業務に従事していた作業員が産業用ロボットの動作に巻き込まれて死亡してしまった事故が発生しています。
この事故では、ブラウン管パネルを運ぶコンベア内部にパネルの破片が落ちていることを発見した作業員が、稼働しているロボットのマニピュレータを停止させることなくコンベアに近づいて落ちている破片を拾おうとした際に、マニピュレータが作業員の頭部へ直撃し、マニピュレータと減速機の間に頭部が挟まれた状態になって死亡したというものでした。
この事故の原因としては、ロボットを停止させなかったこと、ロボットのマニピュレータから目を離したこと、破片を手で拾おうとしたことなど複数のものが考えられます。
自動車のシリンダーヘッド製造ラインにおいて、半製品の搬送を行っているロボットの動きにはさまれて死亡事故が発生したというケースも報告されています。
これは鋳造工として従事して4年の経験を持つ工員が、製造ラインで異常を発見した際にそのまま搬送ロボットの可動範囲内へ侵入したことで発生した事故ケースです。
本来であれば、異常を発見した際にはまずロボットを停止させて、その上で状況をチェックしなければなりません。しかし工員は自動運転をオンにした状態で危険区域に立ち入ったことで、搬送ロボットに接触して死亡したと見られています。
自動車部品の製造工場において、プレス加工を行う産業用ロボットの動作部にはさまれて作業員が死亡した事例です。
まず、産業用ロボットを設置している自動搬送ラインが停止したため、作業員の1人がプレス機械の内部を確認して作業を行いました。その後、別の作業員が再び製造ラインを稼働させてロボットの自動運転をスタートさせたところ、事故が発生したというものです。
原因として、最初にロボットの内部を確認した作業員が、その後に工具をプレス機の中に置き忘れていたと気づいて、安全プラグを抜かずにプレス機の中に戻ったタイミングで、別の作業員が製造ラインを再稼働させたと考えられています。
これは溶接用ロボットのティーチングを行っていた作業員が、他の作業員のミスによって負傷していた事故のケースです。
まず、作業員Aは溶接用ロボットの操作を停止させた上で、各種調節作業等を行っていました。そしてその際、その場にいた作業員Bに対して回転式テーブルの操作を指示しました。そこで作業員Bは指示に従って回転式テーブルを作動させて必要な位置で再停止しましたが、その後にメインスイッチをオンにしたままその場を離れています。
次いで状況を知らない作業員Cが現れ、ロボットの確認作業を行おうとしたところ、ロボットだけでなく回転式テーブルまで一緒に動作してしまい、回転式テーブルの上で作業していた作業員Aが巻き込まれたという事故です。
産業用ロボットを使用して、いざ事故が発生してしまってから、被災者を救うために取れる対策は多くありません。そのため、そもそも事故が発生しないよう事前の安全対策をきちんと行っていくことが不可欠です。
リスクアセスメントとは、産業用ロボットなどの導入によって起こるかもしれない様々な事故について災害の規模や程度、発生確率を計算し、それぞれのリスクを分析しながら優先順位を決めていく方法です。そしてリスクアセスメントによって想定されるリスク評価に合わせて、それぞれ適切な対策や安全管理のフローといったリスクマネジメントを実施します。
産業用ロボットを導入する場合、必ず事前にリスクアセスメントを実施して、適切なリスク管理を行わなければなりません。
しかし、産業用ロボットのリスクアセスメントを適切に行おうと思えば、そもそも産業用ロボットの導入や利用に関してどのような事故やトラブルのリスクが考えられるのか把握しておくことが必要です。
そのため、業界団体やロボットメーカー、またロボットSIerなどは積極的に事故情報の共有や原因究明を実施しており、産業用ロボットを導入する際には自社としても率先して情報収集に努めつつ、ロボットメーカーやロボットSIerのような専門家にも相談しながらリスクアセスメントの適正化を行っていく姿勢が重要です。
また、自社で事故が発生した場合、軽微なものであっても適切に報告して情報共有を行うことも意識しましょう。
産業用ロボットによる事故リスクを軽減する安全対策や管理マニュアルを考える場合、大前提として「稼働中のロボットに近づかない」というものが挙げられます。
例えばロボットの周囲や、可動範囲内に何かしらの異常や不具合を発見した場合、そのチェックをする際には必ずロボットの電源を切って、ロボットが動かない状態を作らなければなりません。また、その際には運転を停止させるだけでなく、きちんと主電源をオフにして、他の作業員が誤って操作ボタンを押しても再稼働しないよう配慮することも原則です。
その他、思いがけず作業員が危険区域内に立ち入ってしまう場合を想定して、あらかじめ安全柵を設置したり、非常停止装置に連動した人感センサーを導入したりといったことも有効です。
どれほど安全かつ適切な作業マニュアルを作成しても、それを守らない作業員がいれば事故のリスクを下げられません。
たとえ作業効率が低下するように思える作業であっても、安全マニュアルや作業マニュアルで明記されている内容は、事故リスクを抑制するために検討されて明記されているものです。そのため、産業用ロボットの作業に従事する作業員だけでなく、その周辺で他の作業をする人物も含めて、全員がマニュアルの内容を遵守することが必要です。
安全管理をきちんと実行してリスク対策を推進するためには、単にマニュアルを暗記してルールに従うのでなく、そもそも「どうしてマニュアルやリスク管理が必要なのか」という意識向上を目指すことが欠かせません。
そのため作業員や従業員に対する安全教育や特別教育といったカリキュラムを構成し、事故リスクについて意識啓蒙を進めて行くことが大切です。
マニュアルを暗記するのでなく、きちんと考えてマニュアルを遵守する姿勢を身につけましょう。
作業員の動線に障害物が置かれていたり、工具や部品などが落ちたまま放置されていたりすれば、作業員がつまずいたり、そちらに意識が向けられて安全対策がおろそかになったりするかもしれません。また、水濡れやオイル漏れがあれば、足を滑らせて転倒する危険性なども高まります。
工場内の動線や作業環境は常に整理整頓を心がけ、問題があれば率先して清掃や除去を行う意識共有が重要です。
産業用ロボットはとても便利なシステムであり、ロボット導入やFA化によって生産性を大幅に向上させ、従業員の負担軽減を目指すこともできます。しかし、ロボットの操作や安全対策を誤れば、途端に深刻な死亡事故などの労働災害を引き起こしかねない諸刃の剣であることも事実です。
そのため産業用ロボットを導入する際には、必ず事前に事故の事例や原因、対策などの情報を収集してリスクアセスメントを実施し、全ての従業員で安全意識やマニュアルを共有しておきましょう。
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